どうも、靴づくり達人のくすみです。
今回はかかとの積み上げとコバのコテあて、仕上げといういよいよ靴が完成する工程です。
そしてこちらの連載の最後の記事です。
靴ができる感動の瞬間をお届けしてまいります。
ヒール積み上げ
前回までで出し縫いとその縫い目を隠すドブ伏せが住んでいますので、本底に穴を開け木釘を打ち込みます。
かかとの部分は出し縫いをしていないため、本底と中底をさらに強固に固定するためのものであると考えられます。
そこにこんな感じでかかとの積み上げを重ねて仕上がりをシミュレートします。
記憶は曖昧ですが、靴を作りはじめるときに、少し身長を高く見せるために積み上げを一枚多くしたいです、というようなことをカタオカ先生に相談したような気がします。
ただ、積み上げを重ねる前の段階では本底は湾曲しているため、仕上がったときにかかとの底面がまっすぐ平らになるように少しずつ面を削りながら重ねていきます。
積み上げに釘を打ち込み、最後によく見るかかとの先端がゴム素材になっているものを取り付けます。
バランスを見ながら側面を革包丁やヤスリで削って整えたら、こんな感じに仕上がりました。
靴らしさが増してきましたね。
コテあて
靴を見るとき、ついアッパーに目が行きがちです。
しかし、よくみるとコバの仕上げにも非常に手の込んだ仕上げがされているのです。こういったビスポークシューズのような靴はなおさら。
自分でやってみてよくわかるのですが、かなり手間のかかる作業です。
なので数万円の既成靴にはなかなか見られない仕様ですが、この作業こそが革靴が革靴たる存在感を纏わせる重要な仕上げです。
前置きが長くなりましたが、出し縫いをする前にあてたウィールというコテをもう一度あて、ウェルトの周りにギザギザを跡をつけます。
スムーズにコテをあてないともともとついていたギザギザと位置がズレてしまうので、慎重に。
ギザギザをつけたら次は角を落とすためにこういった専用の刃物でさらにコバを整えていきます。
この後コバに色を入れていくわけですが、その前にまた別のコテでコバの形をより細かく整えていきます。
ウィールも合わせてすでにコテが3つ登場していますが、コテたちはこういったコンロで熱して、水で温度を調整して使います。コンロじゃなくてアルコールランプを使うこともありますね。
みんなで暖を取っているみたいで、なんだかかわいい。
コバ色入れ
筆にコバインキをつけて、色をいれていきます。
女性のお化粧の眉毛を描いた後のように、靴という顔が引き締まりキリッとした表情になります。
ご覧の通りコバインキが土踏まずの部分にはみ出していますが、アッパーについたコバインキはなかなか落とせませんのでご注意ください。
その後、同系色のロウを火で炙ってコバに直接塗り、そこにさらに先ほどと同じウィールをあてます。そうすることで、出し縫いの縫い目に沿ってこの立体感のあるギザギザの仕上げが完成します。コバもロウを塗ったことによってツヤっとしているのがわかりますよね。
先生に仕上げを整えていただきます。
ソールに濃い色が入ったことで、よりアッパーの茶色が際立ちます。今までダークブラウンという表現をしていた色でしたが、こう見ると落ち着いた雰囲気のある色であることがわかります。
ウィールをあてる前に、塗ったロウを布で擦って拭き取るという作業があるのですが、この靴づくりの全行程の中であれが一番大変な作業でした。弱音を吐きまくった結果、見かねた先生が手伝ってくださいました。
かなり力が必要な作業で、次の日はしっかり筋肉痛になります。
最後にヒールの下部に熱したコテをあてて、細かい仕上げを施します。
コバはこれで完成したので、次はソールの最終仕上げです。
ソール仕上げ
布海苔(ふのり)と呼ばれる海藻をお湯でといて、糊(ノリ)をつくります。
このノリをソール全体に塗って磨き上げます。
ナチュラル仕上げのソールが完成。
てっきりロウで仕上げているものだと思っていたのですが、昔からある仕上げ方なんだそうです。
最も僕の才能を発揮したヒドゥンチャネルの美しい仕上がりも、ツヤが出たことによりさらに際立ちます。
次はトゥスチールを取り付けます。
このよく見るトゥスチールには実はサイズがいくつかあります。たまたまちょうど良いサイズのものがあったので、そちらを使わせていただきます。取り付ける場所を想定してペンで線を描いたらトゥスチール分の厚さだけソールを削ります。
ボンドを少し塗り、ネジで固定したら完成。
これで安心して履くことができますね。
アッパーの仕上げ
ロングバンプのストレートチップですが、革の断面にはまだ色の付いていないので、そこに靴のクリームを塗って色を入れていきます。
細かい部分ですがこういう作業を積み重ねるごとにどんどん靴の雰囲気が増していきます。
靴全体にもクリームを塗って、うっすらワックスで鏡面磨きをしたら、完成。
このままオブジェとして飾っておきたいほどです。
既成靴には見ることのない独特の立体感とうねりが、トゥのツヤも相まって生き物かのような神秘性を漂わせます。夜になると這って歩き出しそう。
もう一枚。
よくよく見ると、ステッチはガタガタなところがあるんですが、先生のおっしゃってた通り、靴になるとそこはそれほど目立ちません。
足入れ…の前に
片方の足は、吊り込む段階でかかとの接着剤が少し漏れていたようで、木型が抜けません。
カタオカ先生にどうにか接着剤を剥がしていただきどうにか木型を抜きます。
木型を抜いたらフィッティング…といきたいところですが、その前にやらなければならない作業が2つ。
インソールの作成と靴紐の作成です。
かかとの積み上げをつける前に木釘を打ち込みましたが、それが中底を突き抜けて飛び出ているのでカットします。
そして、こんな感じで切り出したインソールに接着剤を塗り、貼り付けます。
そして、靴紐もちょうどよい色のものをいただき、この靴に合う長さにカットして、金ゼルをつけます。
「茶色の靴紐に合うのは何色の金ゼル?」という疑問に対して、アンティーク調に2票、シルバーが1票。
ということでアンティーク調の金ゼルを専用のペンチで取り付けたら、とうとう完成です。
深い茶色のコバに、少し赤みのあるくすんだ茶色が際立ちます。
いよいよ靴になりました。
フィッティング確認とシワ入れ
いよいよ足入れ。フィッティングの確認です。
心地よいキツさとホールド感、でもイヤなキツさは全くない、とても気持ちの良い履き心地でした。
グッドイヤーの靴のような独特の底の硬さも無く、良い意味で柔軟です。
カタオカ先生に足の屈曲位置を確認してもらいながらシワ入れを行います。こんな感じ。
シワ入れってその靴にひとつの歴史を刻む、みたいな重要な儀式のようでもあります。
嬉しい、けど寂しいみたいな、そんな気持ちです。娘を嫁に送り出す、父親もそんな気持ちなんだろうかとか想いを馳せながら思い切ってシワを入れます。
最後に
革靴を一からつくるという体験をさせていただいたことで、革靴というものがどう構成されているか、そして今まで気にも留めていなかった革靴の細かい仕上げや仕様を理解することができました。
それも徹底して本格仕様。仮縫いの靴も木型の調整も含め、プロが作る方法と全く同じ工程を体験させていただきました。
改めて、シロエノヨウスイのカタオカ先生、高井先生、ご指導ありがとうございました。
というわけで、これからは僕もドヤ顔で靴職人を名乗っていこうと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。