革靴の寿命は何年?長く履ける靴の種類は?コスパの良い靴の種類は?

「私は、安い靴を買うほど裕福ではない。」

これはとある英国紳士の名言で「安い靴は寿命が短いのですぐに買い換えなければならず、かえって高くつく」という意味があるそうです。

たしかに、安い靴ほど壊れやすく、高い靴ほど長持ちするような気がしますよね。

ですが、いくつか疑問も浮かびます。

「そもそも、どうなったら靴の寿命が尽きたというのでしょうか?」

「本当に安い靴は『かえって高くつく』のでしょうか?」

「寿命を延ばす方法はあるのでしょうか?」

というわけで、今回は革靴の寿命について掘り下げてみたいと思います。

どういう状態を「革靴の寿命が尽きた」というのか?

まずはじめに、どうなったら革靴の寿命は尽きたというのでしょう?

靴としての機能を果たせなくなったとき、と考えるとやはり「ソールがすり減ってしまったとき」でしょうか。

ソールは歩くたびに削れてすり減り、どんどん薄くなっていきます。

ソールが薄くなってきた革靴を履いていると、踏み込んだときに足の裏にダイレクトに力が加わるため、足が疲れやすくなります。

また、すこし尖った小石を踏むと、足の裏が痛くなってしまうこともあります。

ソールがすり減って薄くなると、歩行をサポートしつつ足を守るという靴としての役割が果たせなくなります。

もちろん、ソールがすり減り切る前にどこか別のパーツが修理不能なくらい壊れてしまうということも考えられますが、それはどちらかというと事故?な気がします。

人間でいう病気や怪我もなく寿命を迎えたということを靴に当てはめてみると、やはり「靴の寿命 = ソールがすり減りきってしまったとき」といえるかと思います。

ソールを交換できる靴できない靴

「ソールがすり減ったら修理交換すればいいんじゃない?」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。

その通りで、ソールを交換すればその分靴は長く履けます。

ただ、どんな靴でもソールの交換ができるわけではありません。

靴の作り(製法)によって、ソール交換ができるものとできないものがあります。

また、ソール交換可能な製法でも、何回もできるというわけではなく、製法によって交換できる回数がある程度決まっています。

まとめると、靴の寿命は、ソール交換が可能な回数によって変わる、そして、ソール交換が可能な回数はその靴がどの製法で作られているかによって変わるということになります。

限界までソール交換をして、その上でソールがすり減りきってしまったときが、その靴の寿命です。

ここでは、革靴の 3 大製法「グッドイヤー・ウェルト製法」「マッケイ製法」そして「セメント製法」について、ソールの交換可能回数を見ていきたいと思います。

グットイヤー・ウェルト製法の靴はソール交換できる

まずは、グッドイヤー・ウェルト製法。

高級紳士靴の代名詞ともいえる製法で、この製法で作られた靴は安くても 3 万以上はします。

グッドイヤー・ウェルト製法の靴はソールの交換ができます。

一般的に、2 〜 4 回程度ソール交換でき、トータルで 3 〜 10 年以上は履けるといわれています。

3 つ製法のなかで最もソールの交換可能回数が多く、最も寿命が長い靴が作れる製法です。

グッドイヤー・ウェルト製法は、イギリスで発展してきた製法です。

イギリスは雨の多い気候なので、雨に塗れてソールがすぐに傷んでしまうことを想定してか、ソール交換がしやすく、かつ複数回交換できるような作りになっています。

寿命が長いということ以外にも、雨が靴の中に入りにくい、どこかに軽くぶつけてもビクともしない堅牢さがある等の特長があります。

補足 1:グッドイヤー・ウェルト製法の靴のソールはこのように交換される

グッドイヤー・ウェルト製法の靴のコバ(アウトソールが側面に飛び出ている部分)には、アウトソールをがっちりと固定する縫い目がついています。

これを「出し縫い」と呼び、ソールを交換するときにはこの出し縫いの糸を切って、アウトソールを換え、新しい糸を通して縫い付けます。

通常、新しい糸を通すときは、古い糸が通っていた穴に通しますが、このパーツが脆いと穴が広がったり傷んだりします。

グッドイヤー・ウェルト製法の場合、「ウェルト」と呼ばれる頑丈な素材でできたパーツにソールを縫い付けます。

頑丈なので新しい糸で縫い付けたときのダメージが少なく、それゆえに何度もソール交換が可能になっています。

補足 2:グッドイヤー・ウェルト製法の靴は「靴のコバの縫い目」で見分ける

グッドイヤー・ウェルト製法で作られた靴は、コバに縫い目があります。

ただし、飾りで縫い目がついていることもあるので、100 % 見分けられるかというとそうではありません。

マッケイ製法の靴はソール交換できる

次は、マッケイ製法です。

この製法で作られた靴は、軽くて履き心地が柔らかいのが特長です。

1 〜 2 回ソールの交換ができ、トータルで 3 〜 6 年は履けると言われています。

3 つの製法のなかではグッドイヤー・ウェルトに次いで寿命の長い靴が作れる製法です。

グッドイヤー・ウェルト製法の靴に比べると安価で、価格と寿命のバランスが取れた製法です。

マッケイ製法は、イタリアで発展してきた製法です。

イタリアはカラッとした気候で、雨に濡れてソールの傷みが進んでしまうことがないため、何度も交換できるようにしておくことはそれほど重視されなかったのでしょう。

補足 1:マッケイ製法の靴のソールはこのように交換される

マッケイ製法は、アウトソールをインソールに直接縫いつけています。

この縫い目を「マッケイ縫い」と呼び、ソールを交換する際は「マッケイ縫い」の糸を切ってソールを剥がしてから、新しいソールをふたたび縫いつけます。

新しいソールを縫い付けるとき、インソール側に空いた穴は、広がったり裂けたりなど傷みが生じます。

インソールは柔らかい革なので、ソール交換によるダメージが大きいです。そのため、マッケイ製法の靴は、グッドイヤー・ウェルト製法の靴よりもソールを交換できる回数は限られています。

補足 2:マッケイ製法の靴は「靴の中の縫い目」で見分ける

マッケイ製法で作られた靴は、靴の中のインソールに縫い目があります。

縫い目の上にさらにインソールが重ねられていて、縫い目が隠れている場合もあります。

隠れている場合でも、靴の中に手を入れてインソールを撫でてみるとポコポコした感触があります。

セメント製法の靴はソール交換できない

最後に、セメント製法です。

メンズの革靴だけでなく、レディースの革靴やスニーカーなどにも広く採用される製法です。

セメント製法で作られた靴は、ソールの交換ができません

一度ソールがすり減ってしまうと交換ができないので、履けて 1 〜 2 年といったところでしょうか。

ソールを接着するだけのシンプルな構造なので、3 つの製法のなかで最も低価格です。

補足 1:セメント製法の靴のソール交換が難しい理由

グッドイヤー・ウェルト製法やマッケイ製法は、糸でソールを縫いつけているため、糸を切れば分解してソールを交換することができました。

しかし、セメント製法はソールを強力な接着剤で固定しているので、ソールを剥がすのが容易ではなく、剥がせたとしてもアッパーにかなり高い負荷がかかります。

腕のいい修理屋さんならセメント製法の靴でもソール交換ができると聞いたことがありますが、下手をしたら靴より高額な修理費になるでしょう。

補足 2:セメント製法の靴は「縫い目の有無」で見分ける

靴の外側や内側を見てもソールを縫いつけるための縫い目が見当たらない場合は、セメント製法で作られています。

ただ、飾りで縫い目がついていることがあるので、縫い目がついているからといってセメント製法でないとは言い切れません。

製法別の革靴の寿命まとめ

ここまで紹介した 3 つの製法の寿命を表にまとめてみます。

ソールの交換可能回数 寿命
グッドイヤー・ウェルト製法 2 〜 4 回 3 〜 10 年
マッケイ製法 1 〜 2 回 2 〜 6 年
セメント製法 0 回 1 〜 2 年

このなかで寿命が長いといえるのは、ソールの交換が可能な「グッドイヤー・ウェルト製法」「マッケイ製法」でしょう。

「私は、安い靴を買うほど裕福ではない。」と呟いた英国紳士のいう安い靴とは「セメント製法」で作られた革靴のことだったのかもしれませんね。

どの製法の靴が経済的かシミュレーションしてみる

製法ごとの寿命が整理できたので、本当に「安い靴はかえって高くつく」のか、シミュレーションしてみたいと思います。

一足の価格とソール交換の回数の条件は以下のようにしてみます。

  • 「グッドイヤー・ウェルト製法」の靴は、一足 30,000 円(ソール交換は 4 回まで)
  • 「マッケイ製法」の靴は、一足 20,000 円(ソール交換は 2 回まで)
  • 「セメント製法」の靴は、一足 15,000 円(ソール交換は 0 回)

そして、ソール交換に関する条件を以下とします。

  • 2 年履いたらソールを交換しなければならない
  • ソール交換の料金は、1 回 13,000 円(参考:Shoe Repair Shop RESH 価格表

この条件で 10 年でシミュレーションした結果が下の表です。

靴の購入にかかる金額 修理にかかる金額 トータルでかかる金額
グッドイヤー・ウェルト製法(10 年) 30,000 円(1 足) 5,2000 円(4 回) 112,000 円
マッケイ製法(6 年) 40,000 円(2 足) 39,000 円(3 回) 79,000 円
セメント製法(2 年) 75,000 円(5 足) 0 円 75,000 円

セメント製法の靴が一番経済的ですね。

もうすこし期間を伸ばして 20 年でシミューレーションしてみます。

靴の購入にかかる金額 修理にかかる金額 トータルでかかる金額
グッドイヤー・ウェルト製法(10 年) 60,000 円(2 足) 104,000 円(8 回) 164,000 円
マッケイ製法(6 年) 80,000 円(4 足) 78,000 円(6 回) 158,000 円
セメント製法(2 年) 150,000 円(10 足) 0 円 150,000 円

差は縮まりましたが、それでもセメント製法のほうが若干安いという結果になりました。

補足:寿命はあくまで目安です

イギリスの元首相であるトニー・ブレアは、毎週の質疑応答で毎回同じ靴を履き続けていて、その靴を 18 年間も履き続けていたというのは有名な話です。

逆に、セメント製法の靴には耐久性のあるいい素材が使われていないためか、わずか半年で履けなくなってしまったという話を聞いたこともあります。

履く頻度や履く人の体重、ソールの素材で大きく寿命が変わってくるので、正確な寿命を知ることはできません。

この記事で紹介している寿命は、一つの目安として考えてもらえればと思います。

それでも私がグッドイヤー・ウェルト製法やマッケイ製法の革靴をおすすめする理由

シミュレーションでは、セメント製法の靴が一番安上がりという結果になりました。

ただ、私が感じたのは「セメント製法は割高だな」ということです。

グッドイヤー・ウェルト製法やマッケイ製法の靴には、セメント製法にはない優れたところがあります。

長く履くうちに足に馴染んで履き心地が良くなるのもありますし、手入れをしながら履くことで革の経年変化を楽しむこともできます。

一方で、長く履くことが想定されていないセメント製法では、足に馴染みにくかったり、コストを抑えるためにあまり良い革を使えなかったりします。

また、経年変化を楽しむ間もなく寿命が尽きてしまうでしょう。

たとえば、20 年のシミュレーションでグッドイヤー・ウェルト製法とセメント製法との差は 14,000 円です。

1 年で 1,000 円以下の差です。

この金額で履き心地や経年変化の楽しみを得られるのであれば、私は断然グッドイヤー・ウェルト製法かマッケイ製法の靴を選びたいです。

革靴の寿命を延ばす方法

さて、ここからは革靴の寿命を延ばす方法について書きたいと思います。

革靴の寿命を延ばすとは、すなわち、ソールのすり減りを軽減することです。

ソールのすり減りを抑えて、できるだけソールを交換しなくて済むようにすることが長く履くためのコツです。

方法 1:ソールの潤いを保つ

レザーソールに限った話になりますが、ソールのすり減りを抑えるためには、まず「ソールの潤いを保つ」ようにします。

革にはもとから水分や油分が含まれており、これによってしなやかさと丈夫さが生まれています。

しかし、時間が経つと水分や油分は徐々に抜けていき、乾燥していきます。乾燥が進むと、ソールはもろくなり摩耗しやすくなります。

そこで、「ソールモイスチャライザー」という手入れ用品でソールに潤いを与えることで、すり減りを抑えることができます。

ソールモイスチャライザーの使い方については「【動画付き】革靴のソールの手入れ方法をわかりやすく解説します」で解説していますので、ぜひ見てみてください。

方法 2:つま先にトゥスチールをつける

もう一つやっておきたいのが「トゥスチールをつける」ことです。

履き始めの革靴のアウトソールはとても固く、つま先が過剰にすり減って、すぐにソール交換が必要になる場合があります。

そこで、「トゥスチール」という金属を付けてソールのつま先部分を保護することで、すり減りを防止することができます。

個人的には、トゥスチールが必要なのは、グッドイヤー・ウェルト製法の靴だと思っています。

この製法の靴は、履き始めのソールが固く、つま先が比較的減りやすいからです。

修理屋さんに行けば、3000 円ほどで付けることができるので、グッドイヤー・ウェルト製法の靴には付けておきたいです。

逆に、マッケイ製法やセメント製法の靴の場合は、履き始めからソールの反りが良く、つま先が過剰にすり減ってしまうことがないため、トゥスチールは必要ないでしょう。

方法 3:ソールにハーフラバーを貼る

ハーフラバーを貼ることで、ソールがすり減らないようにする方法もあります。

ハーフラバーとは、ソールの前半分くらいに貼る薄いゴムのことです。

張り替えが可能なので、ラバーに穴が開く前に新しいハーフラバーに交換すれば、ソールがすり減ることはありません。

つまり、ハーフラバーを貼り続ければ、ソールのすり減りが原因で革靴に寿命が訪れることはなくなります!

ただし、レザーソールの独特な歩き心地がなくなってしまうという欠点もあります。

あまりレザーソールの歩き心地にこだわりがない方や、お気に入りの靴を何十年と履き続けたい方におすすめの方法です。

その他、革靴を綺麗に履き続けるコツ

ここまで、限界までソール交換した & ソールがすり減りきった = 靴が寿命を迎えたという前提で書いてきました。

ただ、機能的なこととは別に、靴にはもう一つ寿命を迎える瞬間があります。

それは「持ち主に履かれなくなったとき」です。

現実には、こちらの形で寿命を迎える靴のほうが多いのかもしれません。

履かれなくなった理由は、汚れた、革がひび割れた、型崩れした、臭くなった… 色々あると思います。

さいごに、綺麗な状態を保って気持ちよく履き続けられるコツをいくつかご紹介します。

月に 1 回クリームを使って手入れをする

手入れしないと革はどんどん乾燥してしまい、もろくなってひび割れてしまいます。ひび割れしてしまった革はもとには戻りません。

傷やひび割れだらけの靴を履きたいと思う人はいませんよね。

靴に対する愛着がなくなり徐々に履かなくなって、しまいには捨ててしまうでしょう。

寿命がくるまで綺麗に履き続けるために、月に 1 回ほどクリームを使って手入れをするようにします。

手入れに必要な道具や詳しい手順は「忙しい人のための簡単にできる革靴お手入れ術」で解説しています。

履くときは靴べらを使う

靴を履くときには、靴べらを使うようにします。

靴のかかとの部分には、芯材と呼ばれる固いパーツが入っています。

靴べらを使わずに履こうとすると、この芯材が変形してしまいます。

玄関先に置いておき、使う習慣をつけておきましょう。

3 足以上をローテーションで履く

複数の靴をローテーションして履くようにします。

ローテーションして履くべき理由は、汗を乾かす期間を設けるためです。

足は 1 日でコップ半分から 1 杯ほどの汗をかいていると言われ、1 日履くと完全に乾くまで 2 日ほどかかります。

汗が乾かないまま繰り返し履くと靴の中の湿気はずっとこもったままになり、臭いやカビの原因になります。

私は、3 足以上をローテーションして履くことをオススメしています。

理由は「革靴は何足持つべき?ローテーションで履くべき靴の数と種類を考える」の記事で解説しているので、ご興味のある方はご覧ください。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。

この記事では、革靴の寿命について詳しく解説しました。

作り方のちょっとした違いで寿命が大きく変わってくるので、革靴を購入するときはどんな製法で作られているかを一つの基準にしてみるといいかもしれません。

「革靴の寿命って、何年なんだろう?」と疑問を持った方にこの記事がお役に立てば嬉しいです。

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