革靴は雨に濡れると染みになりやすいです。
雨の日は、傘をさしていても足元はどうしても濡れてしまうので、家に着く頃にはビッショリになっていることもしばしば。
「乾けば大丈夫か」とそのまま玄関に脱ぎっぱなしにしてしまうと、翌朝には染みになっているかもしれません。
雨染みを防ぐには、濡れたまま放置せず正しい乾かし方をしておく必要があります。
この記事では、大切な靴が雨に濡れてしまったときの “正しい乾かし方” をご紹介します。「雨染みができてしまった!」という方のために、染みの消し方についても解説します。
この記事のもくじ
なぜ雨に濡れると染みができるのか
染みとは、液体などが部分的にしみついて色の違いできてしまうことです。
木材を例にして考えてみましょう。乾燥した木材に一滴の水を垂らします。すると、水は木材にみるみる吸収され、乾燥した部分と水を吸収している部分で色が違って見えます。
木材に垂らした水が綺麗であれば、乾かせば元に戻るでしょう。染みにはなりません。しかし、もし水に色がついていたらどうでしょうか?
乾かしても多少なりとも色が残ってしまうことは想像できると思います。
簡単にいうと、これと同じことが起きています。
革靴が雨で濡れるとき、綺麗な透明の水で濡れるのではなく、たいてい汚れた色付きの水で濡れます。
まず雨自体が綺麗な水ではなく、ホコリなどを含んだ汚れた水です。また、靴は地面に近いので、細かい砂や泥を含んだ汚い水で濡れやすいです。
さらに、靴が濡れると「コバ」と呼ばれる部分(地面に接触するソールの端面)の着色料が溶け出すことがあります。コバが水で濡れると染料が溶け出して、染料の混じった水がどんどんアッパーに染みこんでいきます。
それだけでなく、アッパーの革自体の染料が水で溶けてしまうこともあります。綺麗な水だとしても、濡れた部分の染料が溶けてしまうことによって、色付きの水になってしまいます。
こういった理由で、革靴は色付きの水で濡れ、そのまま乾いて染みになってしまうのです。
下の写真の黄色で囲った部分にうっすらと線が入っているのがわかるでしょうか?
これは、私の靴をわざと濡らして雨染みを再現したものです。水道の綺麗な水に何度か浸してできたものなので、コバの着色料が色移りしてできたものと推測できます。
他にも、「塩ふき」と呼ばれる、白い染みができる場合もあります。これは、足の汗に含まれる塩分がアッパーに蓄積し、水分が蒸発する過程で結晶となって表面に浮き出てくる現象です。染みになるメカニズムは異なりますが、同じ雨染みとして扱われることが多いです。
雨に濡れてしまったときにまずやるべきこと ― 正しい乾かし方
雨染みになるのを防ぐには、濡れたまま放置しないことが大切です。
すぐに「正しい乾かし方」をすれば、染みになるのを防ぐことができます。
「めんどくさいから、一晩おいて明日やろう…」 では、翌朝には染みになっているかもしれません。濡れてしまったその日のうちに対処する必要があります。
この方法は、雨染みだけでなく型崩れやひび割れの防止にも効果的なので、ぜひ実践してみてください。
1. 濡れた部分を水でにじませる
下の写真のように部分的に濡れていると、乾いている部分と濡れている部分で色に違いができて染みになってしまいます。
靴紐を外し、軽く絞った濡れたタオルで表面を押さえるようにして、濡れている部分とそうでない部分の境界線あたりを濡らしていきます。水分を滲ませるようなイメージです。
こうすることで、溶け出した着色料や砂などの不純物を分散させることができ、乾いたときに雨染みになるのを防止することができます。
下の写真が、濡れたタオルで水分を滲ませたあとの状態です。濡れている部分とそうでない部分の境界線が、上の写真ではハッキリ見えていましたが、こちらは水でぼやけているのが分かると思います。
次に、乾いたタオルで水分を拭き取ります。ゴシゴシ拭くと表面に傷ができてしまうので、タオルでグッと押さえて水分を吸収するように拭き取ります。
2. 陰干しする
これで乾けば染みにはなりませんが、湿ったままにしておくと今度はカビが生えてしまうので、風通しのいいところで陰干しします。
アウトソールが地面に触れているとソールが乾きにくく、カビが生えやすい状態になってしまうので、下の写真のようにソールを浮かせるよう立て掛けて陰干しします。
新聞紙を中に詰めると、湿気を吸い取るので早く乾きます。
ただし、新聞紙は 2 ~ 3 時間おきに取り替えるようにします。詰めたままにしておくと、湿気を吸収した新聞紙が靴の中の湿度を高くし、逆に乾くのが遅れてカビが生えやすくなってしまいます。
また、ドライヤーで乾かしたり、直射日光の下で干したりすると、急激に水分が蒸発してひび割れの原因になるのでやめておきましょう。
3. シューツリーを入れて完全に乾くまで陰干しする
一晩陰干ししたら、型崩れを防止するためにシューツリーを入れます。
ビショビショに濡れたあと、すぐにシューツリーを入れると、革靴の内の水分が蒸発しません。
一晩ほど陰干しして半乾きの状態になってからシューツリーを入れます。
あとは、インソールとアウトソールに湿気がなくなるまで陰干しを続けます。靴の内側と底を触ってみて、湿り気がなければ乾いています。
完全に乾ききっていない状態で履いてしまうと、汗が染み込みやすく臭いの原因になりますので、十分に乾かすことが大切です。
2 ~ 3 日置いておけば完全に乾くでしょう。
雨染みができてしまったときの対応 ― 染みの消し方
「濡れたまま放置してしまい、雨染みができてしまった。」
「出先で正しい乾かし方が出来ず、気付いたら雨染みができてしまった。」
そんな方のために、つぎは雨染みを消す方法をご紹介します。
また、前章の正しい乾かし方をしても、既に革に色が浸透してしまっていると、染みができる場合があります。同じ動作の繰り返しになりますが、染みが目立たなくなると思うので、この方法を試してみてください。
1. 雨染みを水でにじませる
軽く絞った濡れタオルを用意して、染みになった部分を濡らします。表面をタオルで押さえるようにして、染みの境界線あたりに水分を滲ませていきます。
こちらが雨染みがついた靴です。親指の付け根あたりが染みになっています。
こちらが、タオルで水分を滲ませたあとの写真です。染みの輪郭がぼやけています。
2. 陰干しする
その後、風通しのいいところで、1 ~ 2 時間陰干しします。
雨で濡れるときのようにビッショリ濡れるわけではないので、すぐに乾きます。
こちらが乾かした後の写真です。これだけで染みがだいぶ目立たなくなったのがわかります。
それでも染みが目立つ場合は、「2 – 1. 雨染みを水でにじませる」 と 「2 – 2. 陰干しする」を何度か繰り返してみましょう。
徐々に目立たなくなっていきます。
注意!ステインリムーバーや補色クリームは使わないように
雨染みをステインリムーバーでゴシゴシ取ろうとしたり、補色クリームで目立たなくしようとする方がいます。
ステインリムーバー自体に染みを消す効果はありませんし、ゴシゴシこすって革を傷めてしまう可能性もあります。
また、染みを目立たなくする目的で補色クリームを使うと、元の色と補色クリームの色の違いがかえって目立ってしまうことにもなりかねません。
上記の方法を何度か試してみて、それでも染みが消えなければ、つぎにご紹介する「丸洗いする」という方法を試してみてください。
雨染みがどうしても落ちないときの対応 ― 丸洗いの方法
「前章の方法を試しても染みがなかなか落ちない。」
「染みが大きいから全部洗っちゃいたい!」
という場合は、モウブレイのサドルソープで丸洗いします。全体を洗うので、なんだがスッキリして気持ちのいい洗い方です。
ただし、サドルソープの使用には注意点があります。
サドルソープには保湿成分は含まれているので革に良い、と紹介されている記事もありますが、サドルソープはアルカリ性なので、革にダメージがないわけではありません。何度も丸洗いすると、 濡れる → 乾く → 硬化するを繰り返すので、ひび割れの原因になります。
染みができたらいきなり「丸洗いしよう!」ではなく、2. でご紹介した手順を試しても染みが取れないときに丸洗いするようにしましょう。
また、一般的なスムースレザーの靴であれば基本的に丸洗いできますが、なかには丸洗いできない or 避けたほうがいい素材があります。
もし不安であれば、丸洗いできない素材を一度ご確認ください。
それでは、丸洗いの手順をご紹介します。
1. ステインリムーバーで汚れを落とす
まずは、モウブレイのステインリムーバーを使って汚れを落とします。
のちほど使用するサドルソープを弾かないように、ゴミや表面に残っている古いクリームを取り除きます。
ステインリムーバーを 10 円玉の大きさぐらい布に染み込ませて、表面を優しく撫でるように全体をサッと拭きます。
鏡面磨き(ハイシャイン)をしている場合はステインリムーバーでは落ちません。鏡面磨きをしている場合は、鏡面磨き(ハイシャイン)の方法とその落とし方を参考に、鏡面磨きを落としてからこの手順を踏んでください。
2. 全体を軽く濡らす
スポンジと 40℃ くらいのお湯をはった洗面器を用意します。
スポンジは 100 均に売っているような、食器洗い用のものを使います。
靴の中に水が入らないように新聞紙を詰めた後、スポンジを使って表面全体を軽く濡らします。
内側まで濡らしてしまうと完全に乾くまでにかなり時間がかかります。また、インソールが縮むことによる型崩れの原因にもなります。表面だけ濡らすのがいいでしょう。
3. サドルソープで全体を洗う
スポンジにサドルソープを取り、手でクシュクシュして泡立てます。
泡が立ったら、靴の表面を優しく撫でるように洗います。表面をゴシゴシすると傷が入ってしまうので、優しく洗顔をするように泡で表面を綺麗にします。
4. 泡を拭き取る
余分な泡を乾いたタオルで拭き取ります。泡に保湿成分が含まれているので、洗い流す必要はありません。
5. 陰干しする
型くずれしないようにシューツリーを入れて、2 ~ 3 日陰干しします。
靴の中が濡れてしまった場合は、湿気取りのために新聞紙を詰めて半日ほど陰干ししてから、シューツリーを入れます。
雨に濡れてしまったときと同じように、立て掛けるようにして風通しのいい場所で陰干しします。
こちらが丸洗い前の写真です。トゥの部分に染みがあるのが分かります。
こちらが丸洗い後の写真です。染みが綺麗に消えました。
丸洗いしたあとは、油分が抜けてガサガサになっています。
完全に乾いたら、乳化性クリームでしっかり保湿しておきます。
注意!丸洗いできない素材
下記の素材は丸洗いはしないようにしましょう。
起毛素材(スエード、ヌバック)
スエード、ヌバックは、丸洗いしてしまうと本来の風合いがなくなってしまうことがあるので、丸洗いはしない方が無難です。
ヌメ革、水性染料を使用した牛革
ヌメ革や水性染料を使用した牛革は、染みが目立ちやすく、丸洗いすると悪化してしまう可能性があります。
クロコダイルなどのエキゾチックレザー
エキゾチックレザーはデリケートなので、ヘタに扱うと独特の風合いがなくなってしまったり、逆に染みが広がってしまったりします。往々にしてエキゾチックレザーの製品は高価なので、プロのクリーニング屋に相談した方が賢明です。
エナメル、コードバン
エナメルやコードバンの艶がなくなってしまう可能性があるので、丸洗いは控えましょう。
雨に降られても染みにならないように ― 雨染みの予防
さいごに、雨染みを予防する方法をご紹介します。
雨の日は傘をさしていても、どうしても足元は濡れてしまいます。不純物や着色料の混じった水が染み込むことで染みができるということは冒頭でもお伝えしました。
水が染み込まないように事前に「防水」をしておくと、雨に濡れにくくなり染みの予防になります。
防水スプレーを使用する
手っ取り早いのは防水スプレーです。
市販の防水スプレーにはいくつか種類がありますが、通気性を損なわないフッ素系がおすすめです。
私は、コロニルの防水スプレーを使用しています。フッ素系スプレーで、さらにシダーウッドオイルが含まれているので、防水しつつも、しっとりとした革の風合いも残しておくことができます。
ホコリがついた状態でスプレーをかけると、防水のコーティングと一緒にホコリも固めてしまいます。こうなると、コーティングが剥がれやすくなって防水効果が短くなります。
しっかりとブラッシングしてからスプレーをしましょう。
防水スプレーの使い方は、超基本!防水スプレーの使い方に分かりやすく記載されていますので、ぜひ一度ご覧ください。
乳化性クリームを使用した日頃のケア
日頃から乳化性クリームで手入れしておくことも、雨染みの予防につながります。
乳化性クリームで保湿されていると、革の繊維の間に油分がしっかり入っているので、水に濡れても不純物や着色料が沈着しにくいと言われています。
この記事で使用した革靴は私のものですが、3 度も水浸しにしてやっと染みができました。日頃から乳化性クリームで手入れをしていたので、染みができにくかったのだと思います。
さいごに
ひどい染みでなければ、自宅で簡単に消したり目立たなくすることができます。
それでも染みが目立ってしまうときは、プロのクリーニング屋に相談しましょう。
また、一度雨に濡れてしまうと、染みを消したり乾かしたりするのに数日かかってしまうので、雨の日用の革靴を一足持っておくことをおすすめします。
私は、染みが目立ちにくいように、濃いめのブラウンのシボ革(表面に型押しがしてある革)のものを一足持っており、雨の日はこれを履くようにしています。
とはいえ、突然の雨に降られることもあるので、晴れの日に履く靴も日頃からしっかり手入れしておくことも大切です。