コバが綺麗だと革靴が 10 倍カッコよく見えます(※ 個人的な感想です)。
革靴の手入れというと、靴の本体(通称アッパー)にクリームやワックスを塗ることに意識が向きがちです。
しかし、ソールやヒールの側面(通称コバ)が綺麗でないと全体の印象は良くなりません。
こちらの写真をご覧ください。
上はコバが手入れされた靴、下はコバが手入れされていない靴です。
上の靴が全体的に美しい印象を受けるのに対し、下の靴はどこかみすぼらしい印象を受けます。
コバが手入れされているのとされていないのでは、全体の印象が全然違いますね。
今回は、靴を一段と美しく見せるコバの手入れについて解説したいと思います。
この記事のもくじ
コバってどの部分?
コバは、ソール(= 靴の底の部分)が外にはみ出している部分のことを言います。
具体的な靴のパーツを指す言葉ではないので、人によって多少の意識のズレはあるかもしれませんが、下の写真で色付けされているところが大抵「コバ」と呼ばれる部分です。
黄色の部分がコバの側面、オレンジの部分がコバの上面になります。
グッドイヤー・ウェルト製法の靴の場合、コバの側面をよーく見ると 2 層に分かれているのがわかります。
この 2 層のうち、上側がウェルト、下側がアウトソールと呼ばれるパーツです。
靴ができあがる過程で、ウェルトはあらかじめ靴の本体側(アッパー)に縫い付けられます。
その後、ウェルトとアウトソールを縫い合わせることで、靴は完成します。
したがって、コバの上面(すなわちウェルトの上面)には縫い目があります。
この縫い糸はアウトソールにつながっているため、靴を裏返してみると、アウトソールの外周に沿うように縫い目が見えます(靴によっては隠れて見えないこともあります)。
靴を作る上で、コバはパーツを縫い合わせるための「縫い代」的な役割を果たすのですね。
コバは靴を守るパンパーでもある
コバは機能的な役割も果たします。
靴の本体(通称アッパー)を守るバンパーの役割です。
下の写真は、靴を真上から撮影したものです。アッパー(バーガンディカラーの部分)よりもコバが外側に出っぱっています。
アッパーは足の動きに合わせるために、伸縮性が高く柔らかい革が使われます。したがって、どこかにぶつけてしまうとすぐに傷が付いてしまいます。
これを守るのが、硬い革で作られたコバの役割です。
私は、カフェでお茶をしているときに足を組み換えようとして、「コツン」と机の支柱や椅子に靴をぶつけることがよくあります。「やってしまった…」と思って見てみると、靴は無傷です。
コバがなければアッパーに傷がついていたところを、コバが守ってくれているのですね!
手入れが必要な箇所
最初はきれいでも、アッパーを守った分、コバの側面には傷ができ、色が剥げていきます。
同じ理由で、ヒールの側面も傷が付いたり、色が剥げたりしやすいです。
したがって、下の写真で色付けしたところが主に手入れが必要な箇所になります。
コバとヒールは同じ面なので、同じ仕上がりになるように手入れすることで靴が美しく見えるようになります。
コバの手入れに必要な道具
コバの手入れでは、下記の 3 つを順におこないます。
- 表面をならす
- 色をつける
- 光沢を出す
先ほども触れたように、コバは靴のなかで傷がつきやすい部分です。紙ヤスリを使ってコバの表面をならすことで、傷を目立たなくすると同時に、色が均一にのるようにします。
つぎに、コバインキという専用の染料を使って、色が剥げた部分も含めて、全体の色味を整えます。
最後に、ワックスを使って光沢を出しつつ、染料が落ちないように保護をします。
手入れの手順に入る前に、必要な道具をまとめてご紹介します。
紙ヤスリ
紙ヤスリは、比較的目の細かい #120 を使用します。
大きさは 10cm × 10cm 程度あれば十分です。
ヤスリがけの際にウェルトへのダメージが気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、目の細かいものを使用すれば問題ありません。
コバインキ
コバインキはカラーバリエーションがありますので、黒いソールであればブラック、茶色いのソールであればブラウンなど、コバの色に合わせて色を選ぶようにしましょう。
ちなみに、この記事で手入れする靴のソールはナチュラルなカラーなので、ナチュラルのコバインキを使用しています。
ちょっと雰囲気を変えたいな、という方は色を変えてみても面白いかもしれません。
ワックス
コバインキをコーティングしつつ、光沢を出すのに使用します。
コバインキは水性のため、水に濡れると色が滲んでしまう可能性があります。ワックスでしっかりコーティングを施します。
コバインキにも艶出しの効果はありますが、ワックスを使用することでさらに綺麗な艶のある仕上がりになります。
布
ワックスを塗るのに使用します。
ネル生地がベストですが、使い古した T シャツを使用していただいても構いません。
靴磨きに使用する布の種類と巻き方、万能布を安く用意する方法で、ネル生地を大量に用意する方法を紹介しています。是非ご覧ください。
マスキングテープ(あれば)
コバの手入れでは、コバをヤスリがけしたり染料を使ったりします。
一歩間違えると、アッパーにダメージを与えかねません!万が一に備えて、マスキングテープで保護しておくと安心です。
器用な方は使わなくても問題ないかもしれませんが、私は心配性なので、この記事ではマスキングテープを使用した手順でご紹介します。
コバの手入れの手順
それでは、コバを綺麗にする手順をご紹介します。
こちらが、手入れをする前のコバです。表面がガサガサしており、色もくすんでしまっています。
これをピカピカに綺麗にしていきたいと思います!ヒールも同時に手入れしていきます。
ちなみに、ヤスリやコバインキを使うので、手入れの際は汚れてもいい格好かエプロンの着用をおすすめします。
床も汚れるので、新聞紙などを床に敷くか、屋外でおこなうと後片付けが楽チンです。
下準備:マスキングテープを全周に貼る
下準備として、靴の全周にマスキングテープを貼ります。
1 回で全周に貼ろうとするとかなり長いテープになってしまうので、半周くらいできそうなテープを 2 つ用意します。
そのまま貼ってしまうと、マスキングテープの粘着が革の色を剥がしてしまう可能性があります。ズボンや布のソファに何度か貼って剥がしてを繰り返し、あえて粘着力を弱めます。
ギリギリくっつく粘着力になったら、靴の全周に貼っていきます。
これで準備が完了しました!
粘着力を十分弱めても多少靴の色を剥がしてしまうことがありますが、色付きクリームを使って目立たなくすることができるので、心配はご無用です。
「下準備:マスキングテープを全周に貼る」の動画
手順 1:ヤスリがけをする
まずはヤスリがけのステップです。
ヤスリを 3cm × 5cm くらいにカットします。靴を膝の上に乗せ、親指でヤスリを強めに押さえるようにして、ヤスリがけしていきます。
表面の傷や汚れが目立たなくなり、均一に表面を荒らせていればオーケーです。
「1. ヤスリがけをする」の動画
手順 2:コバインキで色をつける
次に、コバインキで色をつけていきます。
コバインキは、フタにスポンジのようなものがついていて、開けたらそのまま塗れるようになっています。便利ですね!
ただ、そのままだと塗り過ぎになってしまうので、ビンの口で少しインクをきります。
前方から、コバインキを塗っていきます。
一度では塗りきれないので、2 ~ 4 回くらいに分けて全周に塗っていきましょう。
色付きのコバインキの場合は、ムラにならないように薄ーく重ね塗りするのがコツです。
ただ、多少色ムラになっても、最後にワックスで色を整えることができるので、ここで完璧に仕上げる必要はありません。
塗り終わったら、乾くまで待ちます。コバインキの色が他のものにつかないよう、新聞紙などの上に靴を置いて乾かしましょう。
10 分程で完全に乾きます。
ちなみに、すこし時間はかかりますが、ここで一手間かけることでさらに綺麗な仕上がりになります。興味のある方は、次のステップに進む前にこちらをご覧ください。
「2. コバインキで色をつける」の動画
手順 3:ワックスで磨く
最後に、ワックスを塗って磨いていきます。
乾いた布だとワックスが塗りづらいので、手に布を巻いたら 1 滴分くらいの水をつけて布を湿らせます。
そして、布にワックスを付け、コバとヒールに塗っていきます。色ムラができている場合は、色付きのワックスを使用して色を整えます。
全周に塗り終わったら、再度布を湿らせ、ワックスを薄く伸ばすように拭いていきます。
強く拭きすぎるとワックスまで拭き取ってしまうので、優しく撫でるようにするのがコツです。
これで完成です!
「3. ワックスで磨く」の動画
プロ並みの仕上げを求めるあなたに
「3. ワックスで磨く」の前に、スペシャルな一手間加えると、プロ並みの綺麗な仕上がりになります。
下の写真は、スペシャルな一手間を加えて手入れしたものと通常の手入れをしたものとの比較です。
光沢感が違うのがお分かりでしょうか?
革の表面をよく見てみると、凸凹しているのが分かります。凸凹の正体は革の繊維です。この凸凹を平坦にすればするほど、光沢が増します。
凸凹を平坦にするために「ロウ」を使います。
ちょっと根気が必要ですが、最高級の靴にも採用されている手法で、仕上がりがグンと綺麗になります。
準備するもの
スペシャルなお手入れに必要な道具をご紹介します。
ビスポークの製品などは、専用の道具とロウを使用しますが、一般家庭で実践するのはなかなか難しいです。
今回は市販のロウソクと簡単な道具を使って簡易的に仕上げていきたいと思います。
ロウソク
仕上げの要、ロウソクです。
ロウソクを溶かし込んで、表面の凸凹を平坦にしていきます。
この記事では、カメヤマのロウソクを使用しています。
100 均で売っているものでも代用は可能だと思いますが、使ったことがないので同じ仕上がりになるかどうか分かりません!
金属製のスプーン
スプーンは、ロウを溶かして均一にならすのに使用します。
熱するので、金属製のものを用意します。
ライター
ロウソクを溶かしたり、スプーンを熱したりするのに使います。
手順 1:ロウを溶かしてコバに塗る
上で紹介している方法で、「2. コバインキで色をつける」まで終わらせておきます。
ロウソクをライターで炙り、少し溶けた状態にします。
ライターの火の上の方で炙るとススがついて黒くなってしまうので、根元の青い炎のところで溶かすのがコツです。
つぎに、溶かしたロウソクをソールにこすりつけます。ゴリゴリと擦るイメージです。
凸凹をなくしたいので、うっすらロウソクがついた状態ではあまり意味がありません。写真のように、べっとりロウソクでコーティングします。
「1:ロウを溶かしてコバに塗る」の動画
手順 2:スプーンを熱してロウを溶かし込む
ロウを溶かし込むため、スプーンを熱します。
ススがついてしまうのを防ぐため、火の根元の方で温めます。
15 秒くらいで十分に熱くなります。15 秒点火し続けたライターの先端や、熱したスプーンはかなり熱いです。やけどには十分注意してください!
次に、熱したスプーンでロウソクを溶かし込んでいきます。
ソールの 3 分の 1 くらいを目処に、もう一度ライターを熱して同じようにロウソクを溶かし込んでいきます。
ロウソクを溶かし込んだ後は、このような状態になります。
「2:スプーンを熱してロウを溶かし込む」の動画
手順 3:乾拭きする
最後に、コバを 2 回乾拭きします。
ロウソクはコバの凸凹に全て溶け込むわけではなく、溶け込めない分は表面に残ります。
残ったロウソクを乾拭きで拭き取ります。
布を親指に巻きつけ、ゴシゴシとこすっていきます。
ちゃんと拭き取れていないと、ロウの膜が表面に残り、履いたときに割れて白くなってしまいます。
入念に拭き取りましょう。
ロウソクをよく拭き取ったら、艶を出すためにもう一度乾拭きします。
最初は艶が出にくいですが、ゴシゴシしていると徐々に光り始めます。
磨き終わると、このようになります。
最後の仕上げとして、上で紹介している「3. 油性ワックスで磨く」をおこなうと、下のような仕上がりになります。
「3:乾拭きする」の動画
ちょっとした傷には、補色クリームが効果的!
「そんなにコバは汚れてないんだけど、一部だけ傷が入ってしまったな…」という場合は、補色クリームで色をつけてあげると、目立たなくなります。
このように傷がついたら……
色付きのクリームを布にとって塗り込みます。
すると、このように傷が目立たなくなりました!
おわりに
冒頭でも書いた通り、コバはバンパーの役目を果たしています。
バンパーである以上、傷がついてしまうのは仕方がないことです。
だからこそ、「ちょっと汚くなってきたな。」と思ったらしっかりとお手入れをすることが大切です。
「綺麗にしてもすぐ汚れちゃうじゃん!」という声が聞こえてきそうですが、汚れたらまたすればいいのです。お手入れこそ、革靴の醍醐味ですから。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!